このような症状の方は一度受診されることをお勧めします。

「頭痛とつきあう」北海道新聞掲載(2005.11.2〜2006.5.31)

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慢性頭痛は放置せず専門医で治療を
市販薬の飲みすぎには要注意
頭痛の特徴を日記に、症状把握が治療の第一歩
肩こりが原因で起こる頭痛
肩こり頭痛はストレッチと運動で予防
ストレス・目の疲れからくる痛みが、肩こりの原因?!
あごからくる痛みに要注意
耳や鼻の病気も頭痛の原因に
二日酔いにならないために
片頭痛は女性に多い?
片頭痛の薬とは?
「朝がつらい」片頭痛と低血圧の関係
女性の片頭痛
つらい群発頭痛には
心と体のかかわり
原因は睡眠障害
雪はねにはご用心
頭をぶつけたときの対処法 しらずに首にも負担が
ぶつけて認知障害に 高齢者注意!
早期発見、早期治療の帯状疱疹 髪の中にも
電気が走るような顔面痛 三叉神経痛
いきなり脳卒中 高血圧
まぶたの下垂は脳動脈瘤破裂の兆し
くも膜下出血をMRIで発見、破裂を事前に予防
後頭部の痛みか
らはじまる解離性脳動脈瘤
過呼吸時の発作は脳血管もやもや病の信号
毎春やってくる場合もある頭痛、心や体の変化に注意
髄膜腫〜大きさによっては脳に影響
早期発見が大切、脳下垂体腺腫
聴神経鞘腫〜耳鳴りと難聴、肩こり頭痛がサイン
まずは対処法を知ることから始めよう

 


1.慢性頭痛は放置せず専門医で治療を

 「頭が痛い」という言葉をよく使いませんか? 別に頭に痛みを感じたわけではないけれど、簡単には解決できそうもない問題に直面して、悩んでいるときに使われる表現ですね。
 では、本当の頭痛に襲われたとき、皆さんはどうしていますか?「持って生まれた体質だから」とあきらめたり、「我慢できる痛みだから」と、放っておくことも多いのではないでしょうか。
「先生、頭痛なんかで脳神経外科に来ていいのですか」
 私のクリニックを訪れる人の大半が、診察の最初にこのように尋ねてきます。真顔で聞く方も少なくありません。私はいつも次のように答えています。「もちろんですよ。慢性の頭痛は立派な病気です」
頭痛薬や鎮静薬をほしくなるほどの頭痛は、だれもが経験したことがあるはずです。風邪をひいたり、二日酔いや寝不足のとき、乗り物や人込みに酔ったとき、ストレスにさらされたとき、女性では生理時や更年期。
 こうしたときの、頭痛は原因がはっきりしていて、それが解決されると短時間や短期間で治ってしまう一時的な頭痛です。心配するほどのことはなく、多くは専門医に相談する必要もありません。つらい時は市販の薬を使うのもよいでしょう。
 これに対し、慢性的に頭痛を繰り返す場合があります。これを「慢性頭痛」と呼びます。専門医の治療が必要な状態です。耐えられないほどではないが、ほぼ毎日のように痛みがある場合、吐き気を伴う強い痛みが突然起こり、繰り返しおう吐する場合、数カ月に一度、周期的に激しい痛みが数日間続く場合などが、これに当てはまります。
 慢性頭痛の多くは、原因さえ分かればその人に合ったよく効く薬が見つかります。また、痛みを引き起こす生活習慣上の問題も、必ずと言ってよいほどあるのです。


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2.市販薬の飲みすぎには要注意

 毎日、仕事に追われているという40代の男性会社員は、数年前から頭が痛いときや痛くなりそうなとき、市販の頭痛鎮痛薬(痛み止め)をのむようになりました。気軽に服用していたのですが、最近は「手もとに薬がないと不安になる」と訴えます。
 詳しく尋ねると、少なくとも1日に2回はのんでいます。以前効いていたという薬も「だんだん効かなくなってきたようだ」と言います。その結果、薬をのむ回数が増えてしまったようです。
 皆さんも、この男性のように痛み止めを効いているかどうか分からないうちに、つい1日何回も服用していませんか?
 市販の痛み止めの中には、のみ過ぎると薬が体から抜けるたびに頭痛が起き、再び薬がほしくなる「お薬頭痛」(薬剤誘発性頭痛)を引き起こすものが少なくありません。頭痛を止めるための薬が、皮肉にも頭痛の原因になってしまうのです。
 市販薬には、痛み止めの成分が何種類か混ざっているものが多いようです。痛み止めのほか、気持ちを落ち着かせる鎮静作用の成分や、カフェインなど「効いた」というすっきり感を出す、覚せい作用を持つ成分を含む薬もあります。こうしたさまざまな成分が、薬をのみすぎてしまった時に、薬剤誘発性頭痛を起こしやすくするのです。
 大切な仕事の途中や楽しい集まりの最中に、頭が痛くなるのは本当に嫌なものです。痛くて我慢できないとき、たまに市販の痛み止めのお世話になるのは、決して悪いことではありません。
 ただし、薬を選ぶときには次のことに注意しましょう。基本は、痛み止めの成分を1種類だけしか含んでいない薬にすること。あるいは、これに胃を守る成分が加わっているだけのものにします。単純な薬を選ぶのが肝要です。
 それでも、この薬を1カ月に5回以上のむようになったら要注意です。10回以上ですと薬剤誘発性頭痛を引き起こす危険域に入ります。
「前は効いていた薬が効かなくなった」と感じたり、「のむ回数が増えてきたな」と思ったら、早めに脳神経外科か神経内科の専門医に相談してください。
 お薬頭痛になってしまったら、その薬の服用を止めることは大変です。そうなる前に適切な指導を受け、薬をやめるようにしてください。


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3.頭痛の特徴を日記に、症状把握が治療の第一歩

 札幌のオフィス街に勤める20代の女性会社員は、中学生のころから月に1、2回、「ズキン、ズキン」と脈を打つような頭痛に悩まされてきました。コンピューター作業が多くなってからは肩凝りがひどく、頭をきつく絡めつけられるような痛みもあって、私のクリニックを訪れました。
「どこが、どんなふうに痛いのですか」と尋ねると、女性は「頭の右側の時もあるし、左側の時も。後ろが痛い時もあります。昨日は痛みがひどくて、少し吐いた」と言います。
「痛み」を他人に説明するのは、難しいことです。ましてや、頭痛の性格や強さを測定できる機械などありません。
 頭痛の専門医にとって、短時間で正しい診断を下し、患者に合った適切な治療法や薬を選ぶための情報を聞き出すのは大変な仕事です。
 痛みの引き金になった生活習慣や、注意すれば予防できる大切なポイントは、患者に問いかけても気づいていないことが多く、正直言って当初は医師も見逃していることが少なくありません。
 ですから初診時、患者が自分の痛みの様子や特徴をよくつかんで、医師に正しく伝えることが、その後の治療に一番です。
 そのためには自分の頭痛を記録してください。「頭痛日記」です。何を記録するのか。そのポイントを挙げてみましょう。

@ 頭のどこが、どのように痛いのか
A どんなパターンで始まり、消えるのか
B いつ始まり、どんな頻度で繰り返すのか
C 痛みを誘発・悪化させるような要因に、思い当たりはないか
D 頭痛の前後に手足のしびれや力の入らない感じなど気になる症状はないか
E そのとき、どんな薬を、どれくらい服用したか。薬の効果はあったか

 このほか、ストレスのかかり具合、天候や体調との関係、食事や睡眠の状態など、気になることや生活の様子などもメモすると、さらによいでしょう。
 頭痛日記は、診察時の医師の大切な情報源だけではなく、患者も痛みの様子や特徴を知ることで、薬に頼らず楽になる方策を見出せるかもしれません。
 治療開始後も、複数の薬の効果を比較したり、指導を受けた生活改善の有効性を判定するには、欠かせない資料になります。
 頭痛に悩んでいたら、ぜひ日記をつけてください。


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4.肩こりが原因で起こる頭痛

 私のクリニックはJR札幌駅に近く、周辺のオフィスに勤める人たちが頭痛を訴えてよく来院します。ほとんどがパソコンを長時間使う仕事に就いています。その1人、30代の男性会社員も、毎日夜遅くまでパソコンを前に仕事をしています。
 聞くと、学生時代は山岳部に所属し、社会人になっても数カ月に一度の山歩きを楽しみにしていました。でも最近は仕事が忙しく、体を動かす機会がないとのこと。「マッサージを受けて頭痛が一時的に良くなったが、翌日かえって痛みが悪化した」と訴えました。
 検査で、頸椎や脳には異常がありません。よく調べると、首から肩にかけての筋肉の緊張が強く、筋肉がパンパンに張った状態。肩こりに起因する「肩こり頭痛(筋緊張頭痛)」でした。
 しばらく薬をのんで治療しました。翌週の外来で、男性が「3日間、薬をのんだら、楽になったが、薬をやめたら、また痛くなった」と訴えました。
 薬は症状を緩和できても、痛みの原因を取り除くわけてはありません。私は「自分の生活習慣をしっかりと見直し、原因と考えられるものを除くことが大切です。私も同じような環境で仕事をしているので、実はひどい肩こりなのです」と説明しました。
 診察室に並ぶ四台のコンピューターを見て男性も納得したようでした。この肩こり頭痛で悩んでいる人は多いと思います。でも、仕事はしないわけにはいきません。肩こりを防ぐ対策を実行しましょう。そのポイントを挙げてみます。

@仕事中の姿勢を直す
Aパソコンは、30分ごとに画面から目を離し、しっかりと首から肩の筋肉をリラックスさせるストレッチ体操を繰り返す
B週2回、最低20〜30分の運動を習慣にする。

 このほかに、いすや机の高さも大切です。いすは、足首とひざがきちんと90度の角度になるもの。ひじあてがあり、机に向かったときのひじの角度が90度に近いものがよいでしょう。
 いすに座るときは、しっかりと背当てが支えになるように深く腰掛け、おへそを前に突き出す感じです。胸をそらせ、あごを軽くひきましょう。この姿勢が無理なくとれるようにパソコン画面の角度にも注意しましょう。


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5.肩こり頭痛はストレッチと運動で予防

 「最近、頭が重苦しく、ふわふわとめまいがします」と訴えたのは、20代の女性会社員。背が高く、腰掛けた姿勢もきれいな方でした。仕事中はいつも同じ姿勢で、書いたりパソコンを打ったりするとのこと。本人は感じていませんが、ひどい肩こりで「肩こり頭痛(筋緊張頭痛)」でした。
 女性が訴えた後頭部の痛みや重苦しい感じ、ふわふわしためまい感は、首の後ろから肩にかけて広く扇形に広がる「僧帽筋」という筋肉が、緊張し過ぎたため起こります。姿勢がよくても、長時間同じ姿勢を続けるのは、この筋肉に大きな負担なのです。
 前回の、肩こりを防ぐポイントとして挙げた「仕事中の30分おきのストレッチ体操」ですが、急に立ち上がって体操を始めるなんて難しいですね。そこで、いすに座ったまま次のように行ってみてください。
 まずは肩の筋肉をリラックスさせましょう。息を吸いながら、両肩をゆっくり上げます。肩の筋肉を縮めて10秒間、この姿勢を維持し、最後にすっと脱力させます。次に、息を吐きながらゆっくりと肩を下げましょう。今度は肩の筋肉を伸ばし10秒間、この姿勢を維持して、また最後にしっかり脱力します。
 親指と人さし指の間にある「合谷(ごうこく)」と呼ぶ肩こりのつぼを刺激しながら、このストレッチを繰り返せば効果的です。
 休み時間があれば、立ち上がって腕を大きく前から上、上から左右にゆっくり押し広げる運動をするのもよいでしょう。
 また、ストレッチとともに挙げた、もう一つのポイント「週2回、最低20〜30分間の運動」は腕を前後に大きく動かしながら、姿勢よく速歩で歩くことを勧めます。緑の中、鳥の声を聞き、心のリフレッシュを兼ねた散歩なら最高でしょう。
 歩行と同様に勧めたいのは、水泳です。ゆったりと泳げる背泳ぎや横泳ぎが最適です。首を強くそる平泳ぎ、全力を出すバタフライやクロールは避けましょう。
 また、テニスやゴルフのような体の側面だけを使うスポーツや、瞬発力を必要とする激しい運動は、頭痛対策にはお勧めできません。体の両側を均等に使い、首に負担をかけず、首から肩の筋肉をやさしく動かす運動が、頭痛や肩こりの解消に理想的です。



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6.ストレス・目の疲れからくる痛みが、肩こりの原因?!

 医療関係の仕事に就く女性(28)が頭痛を訴えて来ました。目線を見ると、顔を斜めに傾け、時々目を細めるしぐさをします。私が「目が悪いのですか」と聞くと、眼科医から片方の目のピントを合わせる力が弱くなっているが眼鏡をかけるほどではない。と指摘されたそうです。
 この方の症状は「肩こり頭痛(筋緊張頭痛)」ですが、原因の一つは目の調節力の障害と考えられました。もう一度眼科を受診してもらいました。視力をしっかり矯正することで症状はかなり改善されました。
 このように、ものを見る機能に潜んだ問題が、頭痛の原因になることがあります。例えばピントが合わず何もかもがぼやけた世界を想像してみてください。焦点を合わせようと意識を集中したり、目を細めますね。こうすると、肉体的にも精神的にも何倍ものストレスがかかります。首すじから肩の筋の緊張を起こし、頭痛になるわけです。私も経験があります。脳神経外科の手術は、顕微鏡をのぞいて長時間緊張したまま行う細かな仕事です。手術後は疲れ果て、肩から首にかけてまるで鉄板でも入ったかのようになります。若いころはサウナやマッサージで楽になりましたが、40歳すぎからは肩こり感、後頭部の重い感じ、目の疲れなどに悩まされることが多くなりました。
 ある日、思い切って眼科を受診しました。初めて「遠視です」と指摘されました。つまり、歳を取って目の調節力が利かなくなり、知らず知らずのうちに目が疲れていたのです。
 私のクリニックは、パソコンによる電子カルテを使っています。磁気共鳴画像装置(MRI)などの調査の画像、血液検査の数値、脳波の所見などがすべてコンピューター画面に映し出されます。
 キーボードをたたく作業が多くなりました。そこで、パソコン操作がしやすいように中間の距離に焦点が合い、視野が広い、仕事専用の眼鏡を新調しました。以来、肩こりもずいぶん少なくなりました。
 度数が合っていない眼鏡をかけたり、合っていても「格好が悪い」などとかけたりはずしたりしていると、目の疲れから頭痛が起こることがあります。特に子どもや女性に多いようです。頭痛で、もし目の疲れと肩こり感がある場合は、一度眼科医にもみてもらうことが必要でしょう。


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7.あごからくる痛みに要注意

 女性販売員(26)は毎日のように肩こり感、後頭部の重たさに悩まされていたそうです。朝起きた時、すでに頭が重く、午前中はずっとつらいと訴えます。ところが、不思議なことに、昼をすぎると比較的楽になるというのです。
 診察室でゆっくりと口を開けてもらいました。途中で「コキッ」と、変な音がしました。あごの関節に違和感があり、大きく口を開けられない状態でした。どうもかみ合わせも少し悪いようでした。
 次に、「どんな枕を使っていますか」と尋ねると、女性は「大きなふわふわの羽毛枕」と答えます。だが、気がつくと、枕を外してうつぶせで首を片方にひねって寝ていることが多いと言います。うつぶせに寝ている時に限って、激しい歯ぎしりをしているようでした。
 この女性の「肩こり頭痛」の原因は、第1に、あごの関節とかみ合わせの悪さにありました。第2に、疲れをとるはずの就寝中、枕や寝ている姿勢に問題があり、首の筋肉に負担がかかっていたことでした。
 そこで、頭痛対策のための最初の指導は枕です。首が前に強く曲がる高い枕や、軟らかすぎる枕は、首の筋肉に緊張を強いるものです。上を向いた時に少しだけ首が前に曲がる程度の低めの枕に変えることを勧めました。
 後頭部から首の後ろのへこみに合わせ、凹凸をつけた枕でもよいでしょう。首の筋肉が緩んだ状態になる枕が最適です。
 次の指導は、寝る姿勢です。うつぶせで首をどちらかに曲げて寝るのは、首の負担が大きすぎます。あおむけに寝られない方は、抱き枕を使って横向きに寝る姿勢がよいでしょう。
 3つ目の指導は、あごの関節とかみ合わせです。これには、歯科口腔外科を受診してもらい、異常を矯正することでした。
 肩こり頭痛に悩む10代後半から20代の若者が、姿勢や運動習慣を見直したり、ストレス対策を講じたり、薬を工夫しても、頭痛が改善しない場合、顎間接などの問題があることが多いのです。
 大人になって矯正するのは大変です。必要ならば成人前に、歯やあごの関節の矯正を済ますようにしましょう。そうすれば、若者の肩こり頭痛も、かなり減るのではないでしょうか。


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8.耳や鼻の病気も頭痛の原因に

 友人の男性歯科医(47)が、出張帰りの飛行機で経験したことがない前頭部の激しい痛みに襲われ「脳出血の前兆ではないか」と心配してクリニックを訪ねてきました。着陸直前で、頭を抱え込むほどの痛みでしたが、着陸後はうそのように痛みがなくなったのだそうです。話を聞いていて、友人が強いな鼻声であることに気づきました。以前から蓄膿症(慢性副鼻腔炎)があったと言うので、痛みの発作は「飛行機頭痛」ではないかと推測しました。
 目や鼻や耳の奥には「副鼻腔」と呼ぶ空気のたまる部屋があります。この部屋は、小さな管で鼻や耳の穴と通じて外界とつながっています。飛行機が降下して気圧が変化すると、外界とこの部屋の間に大きな圧力の差が生じます。これが痛みの原因です。特に、蓄膿症や風邪、鼻炎などがあると起きやすくなります。
 友人の頭部をコンピューター断層撮影装置(CT)で検査すると、痛みを感じたという、右前頭部、まゆの奥の「前頭洞」と呼ぶ副鼻腔に軽い炎症と粘液がたまっているのが見えました。程度は比較的軽く、脳に異常はありません。私は、蓄膿症に関連した飛行機頭痛と判断し、耳鼻科で治療を受けてもらいました。
 友人はその後、飛行機で頭痛が起きることはなくなったそうです。耳や鼻が弱く、いつも飛行機頭痛に悩んでいる方は、主治医と相談して搭乗前に消炎鎮痛剤を服用すると頭痛を防げることが多いようです。
 耳の病気、例えば中耳炎でも、後頭部痛を訴えることは多いのですが、耳の場合は「詰まった感じ」や「音がこもって聞こえにくい」など、症状がはっきりと分かります。このため、ほとんどの患者は迷うことなく耳鼻科を受診し、適切な治療を受け、頭痛に悩むことは少ないようです。
 これに対し、蓄膿症などの鼻の病気は、友人のように症状がほとんどない場合もあります。適切な受診や診断の機会がないまま、慢性頭痛、肩こり頭痛、片頭痛と間違われ、効果のない薬を投与されている例が決して少なくありません。
 ですから、目の奥や両目の間、おでこやまゆの部分などの頭痛に痛みがよく起こる方で、もし鼻汁が多くでたり、鼻詰まりが気になったりするようなときには、必ず耳鼻科も受診するようにしてください。

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9.二日酔いにならないために

 今年も残りわずか。年末年始でお酒を飲むことが多くなります。今回は慢性頭痛ではなく、二日酔いなどお酒を飲んだ後の頭痛について話しましょう。
 アルコールを飲んで頭痛が起こる第1の原因は、アルコールの血管拡張作用にあります。広がった血管が周囲の知覚神経を刺激して痛みを感じるわけです。
ワイン(特に赤)などは、アルコール以外にも頭痛の原因となる成分が入っています。
もともと慢性頭痛に悩まされている人が飲むと頭痛を誘発することがあるので注意が必要です。
 飲んだ翌朝、二日酔いでひどい頭痛に悩まされることがありますね。もう一つの原因は、この二日酔いを起こす「アセトアルデヒド」という物質です。体に入ったアルコールが肝臓の酸素の働きで無害な水と二酸化炭素に分解される過程で生まれる有害物質です。
 そもそも、お酒に「強い」か「弱い」かは、遺伝的に決まっています。
 両親からアルコールを分解する酸素の遺伝子をもらった人は、分解が早く、体にアセトアルデヒドがたまりません。お酒に強い方です。逆に、両親がこの酸素を十分につくれない遺伝子をもっていた場合は、お酒に弱くなります。一方の親が遺伝子をもっていれば両者の中間型になります。
 アルコールが十分に分解されないとアセトアルデヒドが肝臓からあふれ全身に回ります。頭痛のほか、めまい、耳鳴り、だるさ、口の渇き、吐き気などが起こります。また、アルコールの直接的な脱水や利尿の作用で体の水分や電解質が不足すると、二日酔い症状に拍車がかかるわけです。
 二日酔いを避けるには、楽しく、ゆっくり、自分のペースで飲むことが大切です。アルコール度数は低いものを。吸収を遅くするため、しっかりと食べながら飲みましょう。水分の補給も忘れないでください。
 もし二日酔いになったら。糖や電解質をたくさん含んだスポーツドリンク類で水分を補給しましょう。痛んだ胃にやさしい消化のよい温かいおかゆやスープで胃を満たし、温めのシャワーを浴びましょう。
 頭痛があまりにひどい場合は市販の鎮静剤も効果があります。でも、弱った胃を悪化させないよう、胃薬を一緒に服用する心配りを忘れないでください。肝心なのは、飲み過ぎないことです。


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10.片頭痛は女性に多い?

 20代の女性会社員は、中学生のころから、本を読んでいるときに突然目が見えにくくなるのを感じるようになりました。フラッシュのような光る斑点やギザギザの線が、大きくなってきて中心部が見えなくなるのです。
 初めは10分間程度で消えるので気に留めなかったそうです。そのうち、消えてからしばらくすると、激しい頭痛と吐き気が現れるようになりました。だが、市販薬で我慢でき、一晩寝れば治っていました。ところが、社会人になって、その痛みの強さが増し、実際に吐くようになりました。いったん頭痛が始まったら何も手につかず、静かな暗い場所で横になり、痛みが過ぎ去るのを待つしかなくなったそうです。
 このような女性の症状は、片頭痛の典型例でした。頭痛前に光るのは「閃光暗点(閃輝性暗点)発生」と呼ばれる前兆です。
 このように片頭痛では2〜3割の方に、資格に関する異常感覚のほか、頭の重さやあくび、いらいら感、一時的に半身に力が入らなくなったり、しびれ感などの前兆発作があります。
 片頭痛自体は女性に多く、体質や遺伝的要因が関係しています。祖母や母から娘へと引き継がれることが多いようです。これに過労やストレス、ホルモンバランス、食事などが誘引で発生します。
 ストレスに関しては、かかっている最中ではなく、解放された途端に発生することが多いようです。忙しかった1週間の終わり、解放感に浸った途端に襲われ、とんだ週末になってしまうというわけです。
 また、寝不足もいけませんが、寝すぎることも片頭痛を誘発します。
ホルモンバランスとの関係では、生理が始まると片頭痛が見られ、生理がなくなると痛みから解放される方が多いようです。妊娠中は痛みが一時的に収まることも知られています。
欧米では赤ワインやチョコレート、チーズで誘発される人もいます。日本人には少ないようです。人込み、騒音や雑音、強い照明や日差し、たばこの煙や換気の悪い部屋などの環境も、片頭痛誘発の一因です。
 最近は片頭痛に特効薬があります。痛みが片頭痛だと自分で分かり、誘発や悪化の要因に気が付けばもう大丈夫です。すぐに専門医に相談すれば最適な薬を選ぶことができます。


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11.片頭痛の薬とは?

 看護師の女性(40)は20年前から片頭痛に悩まされてきました。1〜2ヵ月に1回、痛みの前兆はないのですが、吐き気を伴い、ずきずきとした典型的な片頭痛です。でも、痛みが次の日まで続くことはなかったそうです。
 ところが最近、仕事が急に忙しくなったためでしょうか。1週間、毎日のように頭痛に襲われました。痛くて仕事も手につきません。通院先で処方された片頭痛の特効薬「トリプタン」では痛みは一時的に消えましたが、翌日また痛くなる状態が続きました。
 トリプタンを常用すると、薬の飲みすぎで起こる「薬剤誘発性頭痛」になりかねません。特効薬も月に10回以上の服用はやめましょう。
 片頭痛が、何日も続いたり月5回以上起こる方は、特効薬だけで対処しないほうがよいでしょう。こうした場合は、鎮痛効果はないが痛みの発作の回数を減らすのに効果がある。「発作予防薬」を勧めます。
 発作予防薬は、かつて副作用が多くて長期間服用できない薬ばかりでした。でも、現在では副作用が少なく安心して服用できるものが開発されています。漢方薬でも効果的な薬が見つかっています。医師の間では月に2、3回の発作なら、予防薬がよいと考えられるようになってきました。
 この看護師も、予防薬で片頭痛の回数が激減しました。めったにトリプタンを手にすることはなくなりました。仕事にも安心して打ち込めるようになったそうです。
 ところで、発作予防薬を服用した患者から「効き目が無かったので、この薬はもういりません」と言われることがよくあります。こうしたことがなぜ起こるのか‐。
 実は、多くの医師が最初に処方する予防薬は効果が一番強いものではない「カルシウム拮抗剤」という薬だからです。長期間服用を前提に最も副作用が少ない安全なものを最優先に選んでいるのです。
 ほかにももっと強い予防薬はあります。でも、一般的にはまずカルシウム拮抗剤を服用し、それでもつらい発作が繰り返して起こる場合は、専門医と相談して、別の強い薬を処方してもらうのがよいとされています。どの薬も副作用と対処法を聞いておけば安心して服用できる薬です。



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12.「朝がつらい」片頭痛と低血圧の関係

 男子高校生(16)は、毎日のように起こるキラキラと光る斑点や線が見える発作に悩まされていました。月に数回、それに続いて頭が激しくずきずきしたり、締め付けられるような痛みに襲われるそうです。眼科で異常はなく、紹介されて脳神経外科に来ました。
 小学生のころからめまいや立ちくらみがあり、朝礼で倒れたこともしばしば。朝がつらく登校できない日も多かった、と言います。
 調べると、脳には異常はなかったのですが、血圧が最大86、最小62と低く、寝た状態から急に起き上がらせて測るとさらに低下しました。起立性調整障害(起立性低血圧)の状態でした。
 めまいや頭痛のメカニズムは次のようなものだと考えられました。急に起き上がると通常は、自律神経の働きで手足の末梢血管が収縮して全身の血圧が上昇します。手足への血液が減る分、脳に血液を送ろうとします。自律神経系の調節機能です。
 ところが、もともと低血圧な高校生は、自律神経の働きが不十分なため、起き上がった時に手足の末梢血管の収縮が起こらず、全身の血圧が低い状態が続きます。脳に血液が十分送られず、めまいが起きたのです。脳の血管にも、手足の血管と同様の異常が起こると頭痛がしたのです。
 朝、起きるための体の準備も自律神経の働きです。血圧を上昇させて用意をしますが、働きが不十分だと血圧は低いまま。すきっと起きられず、だるくて眠い状態が続いてしまいます。
 高校生には、まず片頭痛と低血圧の両方に効果がある薬を処方しました。2週間で症状が落ち着き、発作もめまいも消えました。次に薬を減らすため、4つの生活指導を行いました。
 第1は、規則正しい生活。夜更かしはせずに早寝早起きを心がける。
 第2は、運動。30分以上の速足歩行を基本にして毎日運動する。
 第3は、入浴時の自律神経の訓練。湯船からでたら足に冷水をかけて血管を収縮させ、また風呂につかる。これを数回繰り返す。
 第4は、血圧を上げる。少しだけ塩分を多くとってもらいました。
 この高校生は性格が明るく活発で、「不登校」や「ずる休み」と言われた経験はありませんが、「朝がつらい」と訴えたり、不登校とされる子の中には、もしかしたら低血圧や片頭痛を抱えた子がいるかもしれません。そうであれば、適切な治療が必要なのです。



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13.女性の片頭痛

 女性保育士(22)は、月経の前から最中にかけて、おなかが痛くなったり体がだるくなったり、ひどい生理痛に悩まされていました。「仕事を休みたい」と思うほどだそうです。
 そこで婦人科医に相談して生理を止める経口避妊薬(ピル)を処方してもらいました。ところが、ピルを服用してから頻繁に片頭痛が起こります。医師や薬剤師に、以前から目の前がキラキラする前兆から始まる典型的な片頭痛があることを話さなかったそうです。
 頭を検査した結果、保育士の脳に異常はありません。ピルの服用をやめてもらい、片頭痛の予防薬をのむことで、保育士の痛みの発作は遠のきました。
 片頭痛は若い方に多く、圧倒的に女性に多く見られます。しかも片頭痛に悩む女性の半数は痛みの発作が月経周期と関係することを自覚しています。「生理中に頭が痛くなる」などいう訴えをよく聞きます。
 妊娠中は発作から一時的に解放されるものの、出産後は子育てや昼夜を問わず授乳するストレスも関係してか、痛みの発作に悩まされることが多いようです。
 若いうちは片頭痛によく悩まされたのに、30代後半から少なくなり、月経がなくなる更年期になると、発作が消えたという話も患者からよく耳にします。
 片頭痛のようなずきずきした頭痛ではないが、頭が重たい、頭が苦しいという感じの症状を含めれば、ほとんどの女性が月経と関係する頭痛に悩んだ経験があるのではないでしょうか。
 片頭痛以外の頭痛だけならば一般的な痛み止めの効果も十分期待できます。生理のときに頭痛と共に全身症状が強い方の場合は、ピルの服用で改善することも多いようです。生理と関係する片頭痛も、ある種の女性ホルモン剤でよくなるという研究結果があります。
 しかし、片頭痛の中でも目の前のキラキラ感を前兆とする典型的な片頭痛の方には、ピルを服用すると脳血管障害(脳卒中)が多くなるという研究結果があるため、原則としてピルを処方しないことになっています。漢方薬など他の方法がないか婦人科医とよく相談してください。
 目の前のキラキラ感の前兆がない片頭痛の方も、ピルが必要な場合は専門医で脳や脳血管の精密検査を受けておく方がよいでしょう。検査で異常がなくてピルを使うことになったとしても、片頭痛が多くなるときは服用をやめ、すぐに主治医を受診しましょう。



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14.つらい群発頭痛には

 1カ月前からほぼ毎日、夜中に激しい頭痛で目が覚めるという男性(41)が「ナイフで目をほじくられているような激しい痛みで、頭を抱え込んでうなり声を漏らすほどつらい」と訴えてきました。
 男性の痛みは1〜2時間で自然に遠のきますが、安眠できません。右目が充血し涙が出ます。鼻が詰まった感じにもなります。仕事にも支障が出てきました。痛み止めは効果がなく、我慢するしかなかったようです。
 聞くと、4年前にも同様の頭痛が2〜3カ月も続いたそうです。でも、その後はうそのように痛みが消えてしまったと言います。
 男性の痛みの発作は、群発地震のように一定期間に集中して繰り返し起こっています。これを「群発頭痛」と呼びます。数年に一度起こり、いったん始まると数カ月間、毎日のように痛みが襲ってきます。
 こうした群発頭痛は、以前なら我慢するしかなかったのですが、純酸素の吸入や、片頭痛の特効薬の皮下注射で、痛みが和らぐことが分かってきました。
 でも、夜中に痛みを我慢しながら病院に行くことは至難の業です。病院にたどりついても、診察が始まるころに傷みが治まっているケースも多いようです。
 最近では、片頭痛の特効薬の中で鼻へ噴霧する薬(点鼻薬)が、群発頭痛に対して皮下注射と同じぐらい早く効くことも確認されてきました。片頭痛の予防薬に、群発頭痛の発作の回数を減らす効果が期待できることも分かってきました。群発頭痛も、片頭痛と同様に、頭痛の起こる側の首が強く凝るという前ぶれを感じる人がいるようです。発作が頻繁に起こる期間にアルコールを飲むと、飲酒後40分から1時間程度で頭痛が誘発されるようですから注意してください。
 狭心症の薬であるニトログリセリンのような血管拡張薬も群発頭痛の引き金になることが知られています。昼寝も誘因となることがあるようです。
 群発頭痛は、数年おきに突然始まり、数カ月間続く激しい頭痛です。確実な予防法も特効薬もありません。主治医と連絡を密に取りながら、生活面の工夫と自分に合った薬を探して、つらさを最小限に抑え、痛みの起こる期間を最短で終わらせることが大切です。



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15.心と体のかかわり

 女性会社員(36)はここ2、3カ月、毎朝、起きると、頭が重い感じで、ひどくなるとズキズキ痛んで吐き気もする、と訴えます。「早くのまないと症状がひどくなるのではないか」と、頻繁に頭痛薬をのんでいたそうです。
 ところが、この欄を読んで、薬の飲み過ぎによる「お薬頭痛(薬剤誘発性頭痛)」があることを知り、心配して相談に来ました。最近の頭痛の様子を記録して持ってきてくれました。
 まず話を聞くと、頭痛が始まったのは、ちょうど職場で昇進があり、仕事の責任が大きくなったころからでした。当時は「もっと頑張らなくては」という思いが、日に日に強くなっていたと言います。
 やがて、食欲がなくなり、夜も寝付きにくくなりました。朝起きたときに熟睡した感じがない状態でした。疲れが残っているような感じで「仕事に行きたくない」と思うことが多かったようです。
 さらに、仕事も思ったような成果がでなかった、と言います。「私はこのままどうなってしまうのだろうか」と、漠然とした不安を抱えて落ち込んでいたのだそうです。
 こんな話を聞いて診察後、念のために精密検査を受けてもらいました。異常はなく、その結果を伝えると、とても安心された様子でした。「よかった」。女性の顔に笑みがこぼれました。
 私はこの方の頭痛を治すには、脳神経外科で痛み止めなどの薬をもらうよりも、抱えた不安や落ち込んだ気持ちを払拭してもらうことの方がいいのではないか、と考えました。そこで、専門の心療内科か精神科を受診していただくことにしました。
 仕事、家庭、学校ー。現代社会はどこにでもストレスの原因があふれています。不安や落ち込んだ気分など心の症状と同時に、食欲がない、動悸がする、肩こりや頭痛がする、などの体の症状がでて悩んでいる方も多いようです。
 この女性のように、心の不調に気付かないまま、頭痛を訴えて脳神経外科を受診する方は決して少なくはありません。「脳には異常なし」と聞くと、いったんは誰もが安心します。処方すれば、痛み止めの効果もあるでしょう。
 しかし、根っこにある、心の治療をしなければ、頭痛の症状は短期間でまた起こり、痛み止めの効果もすぐに消えてしまいます。
 この女性のような、心と体の症状が、繰り返し起こったり、1カ月以上続くようなときは、「自分一人で頑張ってなんとかしよう」とは思わないことです。
 「心が風邪をひいた」と考えましょう。心療内科や精神科で適切な治療を受けるのがよいでしょう。



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16. 原因は睡眠障害

 「最近、頭がぼーっとします。もの忘れもひどくて記憶力が極端に落ちたようです」と、来院した男性(56)が訴えました。同僚が脳梗塞で倒れたこともあって「自分も脳血管が詰まっているのではないか」と話します。
 集中力がなく、会議中にもふと居眠りをしてしまいそうになることが何回もあった、と言います。頭はひどく痛いわけではないのですが、朝起きると何となく頭全体が重たく、体もだるい感じがするそうです。
 脳の精密検査では幸い、脳の血管が細くなって詰まりそうになっている部分は見当たりません。そこで、男性に「きちんと眠れていますか?」と尋ねてみました。睡眠はとっている、と答えましたが、1日8時間以上寝ているのに足りない感じがする、と付け加えました。
 さらに、男性に、いびきをかいているかどうか問うと、「実は妻から、あなたはすごいいびきで、このまま死んでしまうのではと、心配になるほど長い間息をしない時間があると、指摘された」と話すのです。
 男性には早速、睡眠障害の専門医の下で、睡眠中どんな状態にあるのか、検査を受けていただきました。結果は「睡眠時無呼吸症候群」。しかも重症でした。予感通りの結果でした。
 本来、睡眠は疲れをとるためのものですが、この男性の場合はまるで首を絞められ、窒息しそうになるような状態を毎晩繰り返していました。安眠とはほど遠く、心臓や体に大きな負担がかかる状態だったわけです。それが、冒頭の、頭がぼーっとする、など頭痛の訴えに現れていたのです。
 男性は50歳過ぎから毎年体重が2キロずつ増え、身長162センチ、体重が86キロになっていました。胴回りも95センチ。健診で「血圧が高め」「コレステロールも危険域」と指摘され、生活習慣の改善と減量の指導を受けていたのです。
 現在、男性は睡眠時の呼吸を補助する器械を毎晩使って無呼吸状態を解消して安眠を確保する一方、食生活の見直しや適度な運動で減量に励んでいるそうです。体重が減るに従って頭痛の症状も少しずつ改善に向かっているとのこと。ひどいいびきは睡眠時無呼吸症候群の赤信号。頭痛の原因となることも多いのです。



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17. 雪はねにはご用心

 冬になると、除雪で苦労している方も多いのではないでしょうか。
数年前に軽い脳梗塞になったという78歳の男性が来院しました。夜中に寝ていたら右肩から首、後頭部にかけて痛みを感じ、翌朝になったら頭痛がますますひどくなったと、訴えます。
 診察すると、首の変形が強く、右肩から頸部の筋肉の張りが強いものの、手がしびれたり力が入らないというような症状は見られませんでした。背中や腰の筋肉の張りも強く、「何か無理な仕事をしませんでしたか」と尋ねました。
 すると、前日、居間の窓を覆い隠していた、湿って重い雪をはねたとのことです。いつもなら、隣の若夫婦が知らないうちに雪かきをしてくれるのですが、自分の運動になるからと、休憩も取らずに3時間も雪をかき続けたそうです。
 だれでも年齢とともに首、背中や腰(背骨)が曲がってきます。運動する機会も少なくなります。すると、背骨を支える筋肉が衰え、ますます変形を強めます。首や腰、手足の神経に障害を及ぼし、痛みやしびれを引き起こしやすくなるのです。
 男性は50代のころ、一時的なものですが肩から手にしびれが出たり、腰を痛めて、何度か整形外科で治療を受けたこともあったそうです。
 体の衰えを考えずに、一気に雪はねという重労働をしたことが、全身の筋肉痛と頭痛の原因でした。幸い背骨から出る末梢神経の圧迫症状がほとんどなかったので、湿布薬とのみ薬で症状は軽くなりました。
 こうしたことを防ぐには、日ごろから背骨を支える筋肉を鍛える運動(肩こり体操や腰痛体操)や、痛みが出るような無理はいけませんが、足腰に適度な負荷をかけて筋力を強化する散歩(歩行運動)を習慣的に行うようにすることが大切です。
 力仕事は無理のない範囲で行いましょう。軽い新雪の雪はねぐらいならよい運動かもしれません。
 足腰に病気や痛みをお持ちの方は、水の浮力で痛みの原因となる体重の負荷を軽減できる「水中歩行」がよいでしょう。
 ただし、雪はねを甘く見てはいけません。始める前の準備体操と、終わった後の整理体操を十分に行うようにしてください。その日の夜はゆっくりお風呂に入って温め、湿布などを張って寝るのもよいでしょう。万一、痛みが強く、しびれなどを伴うときは専門医に相談することが必要です。



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18.頭をぶつけたときの対処法 しらずに首にも負担が

 冬の札幌の、道路はスケートリンクのような状態です。
 50歳の男性が「街中の路上で滑って転倒し、後頭部を強打してしまった」と診療にみえました。大きな音がしたが気を失うことはなかったと言います。でも、転んだ恥ずかしさが先に思い立ち、痛いのを我慢してすぐに起き上がり、その場を離れたそうです。
 転んだ翌日、特に意識せずいつもの通り仕事をしました。2日目、何となく後頭部が痛くなってきました。3日目、薬がほしいほどの痛みとともに吐き気もしました。家族に見てもらうと後頭部にこぶができていました。
 「頭の中で出血していませんか」と、男性は心配顔で尋ねました。検査の結果、脳内に出血の様子はなく、頸椎にも異常はありません。痛みの原因は、打撲した後頭部のこぶ(皮下血腫)の痛みが半分、ぶつけたときに首の負担がかかってむち打ち損傷のようになった頸部の筋緊張による痛みが半分でした。
 そこで、男性には、しばらくの間は頸部に無理な負担をかけないように配慮してもらい、痛み止めの薬を服用してもらいました。すると、数日ですっかり症状は消えました。
 では、もし頭をぶつけてしまったらどのように対処したらよいのでしょうか。
 頭を強く打った直後に意識がなかったり、話しかけて目を開けてもしっかり話すことができなかったりするときは、急を要します。無理に起こしたり動かしたりしてはいけません。すぐ救急車を呼んで専門病院に運んでもらいましょう。
 意識がある場合はどうでしょうか。傷ができて出血した場合は、病院で傷の処置を受けなくてはいけません。頭皮に打撲あとやこぶが残った程度であれば、ぶつけた部分をしばらく冷やすと、こぶは小さくて済み、痛みも少なくなります。
 頭は思った以上に重たいものです。頭部を打ったときは、支える首にも衝撃が加わります。1週間程度は激しい運動を避け、首に負担をかけるような細かい手作業やパソコン作業は最小限にしましょう。お酒も控えた方がよいでしょう。つらいときは早めに専門医を受診してください。



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19. ぶつけて認知障害に 高齢者注意!

 頭をぶつけて当初は異常がなかったり、ちょっとぶつけただけなのに、1〜2カ月後につらい頭痛が起きることがあります。
 74歳の男性は、お酒を飲んだ帰り道、路上で転倒したようです。でも、当初は自分では転んだことはおろか、どうやって家に帰ったのかも覚えていませんでした。後頭部にこぶ(皮下血腫)があったので、転んだらしいということは分かりました。でも、気にせず放置していました。
 それから1カ月たったころ、何となく頭が痛いと思うことが多くなりました。男性はそれまで頭痛とは全く縁がなかったのですが、痛みは日に日に強くなり、とうとう朝、起きがけに吐き気に襲われました。
 ちょうどそのころから、さっき言ったことや聞いたことを忘れてしまうようになりました。同じことを何度も聞き返したり、つじつまが合わない話も多くなりました。そのため、家族と一緒に来院したのです。
 診療すると、軽い認知障害と、右半身にごく軽いまひ(手足の筋力の低下)がありました。脳をコンピューター断層撮影装置(CT)で検査すると、頭蓋骨と脳の間に血液がたまっていました。男性の症状の原因は、頭をぶつけてから1カ月の間、脳の表面に血液がゆっくりとたまり、周囲の脳を次第に圧迫するようになったことが分かりました。「慢性硬膜下」です。
 年齢のせいで脳がやせ、頭蓋骨と脳のすき間が多いお年寄りに起きやすい病気です。高齢者は足腰が弱って転びやすく、頭をぶつける機会が多いことも関係しています。
 この男性は、頭蓋骨に小さな穴を開け、脳の表面の血腫を洗い流す短時間の手術で、症状はすべて改善しました。症状が軽く血液が少ない場合は、自然に吸収されることもあります。
 この病気は、必ずしも強くぶつけたときに起きるわけではありません。ぶつけたことを忘れるているくらいの軽い打撲でも発生することがあります。ですから、お年寄りは頭をぶつけたら、1〜2カ月間は十分な注意が必要です。頭痛が気になり始め、だんだん強さを増して繰り返すようになり、頭痛と一緒に、手足のしびれや力が入らない感じ、バランスの悪さやめまい感、さらに認知障害がでてきたら、急いで専門医に診てもらいましょう。


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20. 早期発見、早期治療の帯状疱疹 髪の中にも

 今回は頭痛ではなく、おでこの痛みの話です。
 患者は48歳の女性。髪を洗ったとき、前頭部の左側に触るとピリピリと電気が走るような感じがした、と訴えて私のクリニックに来ました。右側は何ともなく、頭をぶつけた記憶もないと言い、女性は首をかしげました。
 髪の毛の中を調べてみると、二センチ程度の範囲に、先端に小さな水疱ががついた赤い皮疹ができていました。典型的な「帯状疱疹」と呼ばれる皮膚の病気でした。
 この病気は、子供のころにかかった水ぼうそうのウイルスが原因です。いったん水ぼうそうになると免疫ができ、二度と水ぼうそうにはなりませんが、ウイルスは消えてなくなったわけではなく、神経の一部に隠れて生き残っています。
 ウイルスは生涯悪いことをせずに潜んでいることが多いのですが、病気で抵抗力が落ちたり、ものすごく疲れたり、大きなストレスにさらされたりすると、活動を再開し、病気を引き起こします。
 お年寄りにも多く、肋骨に沿って走る肋間神経や、おでこの三叉神経にできることが多いようです。
 この女性のように、症状は体の左右のどちらかにピリピリとした痛みが起きます。やがて、その部分が赤くなります。さらに水ぶくれができるようになると、ひどく痛みます。我慢すると、広がって重症になることがあります。
 対策としては、皮膚科を受診し、できるだけ早くウイルスを退治する薬をのむことです。決して無理をせず、安静を心がけましょう。お酒や刺激の強い食べ物は控えた方がよいでしょう。
 通常、水ぶくれが治る3〜4週間で痛みも治ります。でも、皮膚の状態がすっかりよくなっても神経痛が残ることがあるので注意してください。普通の痛み止めで楽にならなければ、神経痛用の薬を処方してもらいましょう。
 時には、冒頭の女性のように髪の中にできて発見が遅れたり、耳の中にできて顔面神経まひを起こしたりすることもあります。帯状疱疹は早期発見と早期治療が大切です。
もし頭の片側だけ電気が走るようなピリピリ感や痛みを覚えたら、今回の話を思い出してください。



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21. 電気が走るような顔面痛 三叉神経痛

 私のクリニックに来た63歳の男性が「食事をしていたら、ビリッと電気が走ったような痛みを、右ほほから耳の上に感じるようになった」と訴えました。
 この症状がいつから始まったか覚えていないそうです。「初めはひどい痛みではないし、歯が悪くなったかな、と思っていました。何科に相談したらよいか分からずにそのままにしていました」と言います。
 ところが、次第に痛みが強くなり、ちょっとした刺激でも痛みを感じるようになりました。右の犬歯が上の歯茎に触ると、痛みが走ることが分かってきたそうです。
 食事や歯磨きのときは特に強い痛みで、ひどい虫歯の痛みが繰り返し襲う感じ、と訴えます。冷たい水を飲んだり、熱いものを食べても痛み、ついに冷たい風に当たっただけでも痛くなり、来院したと言います。
 診察すると、典型的な「三叉神経痛」でした。この病気は、片方の顔の一部、ほほや鼻の回り、おでこやあごが、電気が走るように数秒間激しく痛み、その後はうそのように痛みがなくなります。
 触ったり刺激したりすると痛みが発生する「痛みの引き金となるポイント」があって、ここに触感などの刺激が加わると、繰り返し電気が走るように短時間、激しい痛みが引き起こされるのです。
 原因は、顔面の感覚を脳に伝える三叉神経の脳に入る部分が、動脈硬化で蛇行した動脈によって圧迫されるために発生します。動脈の拍動が神経に伝わり、神経過敏を引き起こし、わずかな刺激が神経痛になると考えられています。
 この男性には、神経痛の特効薬を服用してもらいました。幸い、2種類の薬で量を徐々に増やしたところ、痛みが軽くなり、気にならなくなったそうです。
 でも、薬で痛みが軽減しない場合もあります。その場合は、神経とそれを圧迫する血管を引き離すという、痛みを取り除くための手術を考える必要があります。高齢や持病で手術を受けられない患者は、注射で一時的に神経をまひさせて痛みを感じさせなくする方法もあります。
 つらい顔面痛に悩んでいる方はこの病気の可能性も考えられます。脳神経外科や神経内科の専門医に相談してみてください。


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22. いきなり脳卒中 高血圧

 男性会社員(39)は、2年前から勤務先の健康診断で、高血圧症を指摘されていました。でも、仕事が忙しいうえ、自覚症状がまったくないので、何もせずに放置していました。
 この間も体重が10キロ増えて94キロになり、血圧も最大200、最小140になってしまいました。
 食べ物は濃い味を好み、週に何回かはみそラーメンを必ず食べ、スープも残さず飲むそうです。どこへ行くのにも車を使い、わずか100メートル先でも歩くのは嫌と言います。
 ところが、最近何となく後頭部が重く、疲れが抜けないでだるく、めまいもするので内科を受診しました。心臓、腎臓、内分泌系の異常や睡眠障害はなく、脳の精密検査を指示されたので私のクリニックに来ました。
 脳の断層検査をしてみると、高血圧で大脳の深部の白質という部分に強い変化が起こっていました。男性はこのまま血圧の高い状態が続けば、いつ脳出血を起こしてもおかしくないと思える状態でした。
 皆さんは、血圧が高いと、頭が重い感じや頭痛、後頭部の張り、めまいなどを起こしやすいと思っていませんか。実は、こうした症状の発生頻度は、血圧が高い方も正常の方でも大差はありません。
 それよりも、高血圧は症状がない状態からいきなり脳卒中など脳の恐ろしい病気を引き起こします。「サイレント・キラー(沈黙の殺し屋)」と呼ばれる理由です。
 ただし、最大血圧が170−180以上、最低血圧が100以上になると、頭痛を訴える方が多くなるとの研究結果があります。特に急激な血圧の上昇で頭痛が起きた場合は要注意です。すぐに主治医に相談してください。
 激しい頭痛が突然襲われ、左半身か右半身のどちらかに力が入らなくなったり、しびれたり、言葉が出なくなったり、意識がなくなるようなときは、高血圧による脳出血を起こした可能性が高く、一刻を争う危険な状態なのです。
 高血圧は、冒頭の男性のように、無症状だからといって放置していると、動脈硬化が確実に進行し、脳卒中や心疾患などの原因にもなります。
 遺伝的要因も大きいのですが、肥満、運動不足、塩分のとりすぎなどによる生活習慣病です。家族に高血圧が多かったり、健康診断で指摘されたりしたら、生活習慣を見直すことが大切です。



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23. まぶたの下垂は脳動脈瘤破裂の兆し

 37歳の主婦は、1週間前から痛みは軽いものの右側の前頭部から目の奥にかけて重苦しい感じが消えず、「風邪かな」と思っていたそうです。そのうち、物が二重に見えるようになり、右目のまぶたが垂れ下がってきました。上げようと力を込めるのですが、まぶたは上がりません。
 眼科で右側の「動眼神経まひ」と診断されました。その眼科医から脳に重大な病気があるかもしれないと相談があり、主婦に私のクリニックに来ていただくことになりました。
 診察すると、右目の眼球を上下や内側へ動かしたり、瞳孔を収縮させたり、まぶたを上げる筋肉を支配する、動眼神経が完全まひしていました。
 眼球を動かす神経をまひさせる原因として最も一般的なのは糖尿病です。血糖の調節がうまくいかないとまひが起こることがあります。程度の差はあれ、両目に同時に起こることも多いのです。ところが、主婦は糖尿病ではありません。
 そこで、動眼神経まひを起こすもう一つの原因、すぐに対処しなければ危険な状況を引き起こす脳動脈瘤の有無を調べました。すると、右の動眼神経を圧迫、まひさせている脳動脈瘤が見つかりました。
 脳動脈瘤は、脳の動脈の血管壁の一部がこぶ状にふくれる血管の病気です。大きくなると前兆もなく突然破裂し、脳の中で「くも膜下出血」と呼ばれる大出血を起こします。いったん起こすと命にかかわる病気です。
 この患者のように、動脈瘤が大きくなったときに神経圧迫の症状が表れるケースがあります。破裂前兆に危険を知らせてくれる前兆症状が見られることが少なからずあるのです。
 主婦はすぐ、手術の設備が整った脳神経外科の専門病院に入院しました。動脈瘤の頸部をクリップで閉鎖して瘤に血液が入らないようにする緊急手術を受け、脳動脈瘤を完全に処置しました。
 幸いなことに、術後の経過は良好で2週間で退院。動眼脈流のまひも少しずつ改善し、時間はかかりましたが、今では後遺症がまったくない状態まで回復しました。
 もし、軽い頭痛に、物が二重に見え、まぶたが下がる症状が表われたら、脳動脈瘤破裂の前兆かもしれません。脳神経外科の専門医をすぐ受診しましょう。


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24. くも膜下出血をMRIで発見、破裂を事前に予防

 40歳の女性は、子供連れで友人と一緒に札幌の中心街に遊びに来ていました。ところが、突然、経験したことがない激しい頭痛に襲われました。鉄のハンマーでたたかれたような痛み、強い吐息で何度か吐いたそうです。だが、意識ははっきりしており手足のまひやしびれはありません。
 デパートの医務室の看護師が、車椅子で当院に連れて来てくれました。すぐに診察し、「くも膜下出血」による頭痛発作と考えられました。直ちにコンピューター診断撮影装置(CT)で頭を検査しました。
 結果は予想通りでした。急いで痛みを和らげるために鎮痛剤と鎮静剤、吐き気止めを注射し、血圧が正常であることを確認したうえで、緊急手術のできる専門病院に搬送しました。
 くも膜下出血は、脳出血や脳梗塞という一般的な脳卒中と違い、40〜50代の比較的若い働き盛り年齢層を中心に発生します。脳動脈主幹部の血管壁の一部がこぶ状にふくれ、これが破裂し「くも膜下」という脳表面の髄液が流れている部分に大出血を起こすのです。
 くも膜下出血は前回触れたように、風邪をひいたような軽い頭痛や、眼球を動かす目の神経をまひさせるような破裂の前兆がある場合も少なくないのですが、多くは動脈瘤が破裂して起き、激しい頭痛に襲われて初めて発見されます。
 破裂した動脈瘤は、開頭手術で処理するか、血管内から瘤を閉塞させるものを詰めて処理し、二度と出血しないよう処理しなくてはなりません。だが、この処置が成功しても、出血の影響により半数近くが命を落とす恐ろしい病気なのです。
 女性は搬送後すぐに緊急手術を受けました。数カ月後には「元気になりました」と、子供を連れて顔を見せてくれました。
 くも膜下出血。本当に恐ろしい病気ですが、救いは医学の進歩により、現在では核磁気共鳴診断装置(MRI)を用いて頭の血管を撮影すれば、脳の動脈瘤を破裂前に発見することが可能になっています。
 ですから、家系(特に親やきょうだい)にくも膜下出血を起こした方がいる場合、40歳を超えた方で喫煙習慣があったり、血圧が高かったりした場合には、一度、脳神経外科の専門医に相談してください。



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25. 後頭部の痛みからはじまる解離性脳動脈瘤

 58歳の男性はある朝、トイレでいきんだとき、左の後頭部に「ずきん」と重く差し込むような痛みを感じました。痛み止めで少し楽になったため出勤しましたが、そのうちめまいを感じ、バランスが悪く、ふらついて真っすぐ歩けないことに気付きました。痛みも激しさを増し、急いで私のクリニックに来ました。
 男性は左後頭部の首と頭の付け根の部分を差して「ここが痛い」と訴えました。ごく軽度なのですが小脳の障害があり、バランス異常を起こしていました。核磁気共鳴画像装置(MRI)で断層撮影と血管撮影検査をすると、非常に小さな脳幹部の梗塞が見つかりました。
 脳梗塞の原因は、椎骨動脈という太い脳血管の一部が、頸部から後頭部を通って脳に入る部分で、血管の壁がはがれ(これを「血管解離」と呼びます)、その部分から分岐する細い血管を詰まらせてしまったことによるものでした。首の付け根の痛みは、血管の壁がはがれた時の痛みだったのです。
 血管の壁がはがれて痛みを感じる「解離性動脈瘤」と言えば、往年の映画スター石原裕次郎さん(故人)が手術を受けた胸部の大動脈瘤がよく知られていますが、脳の血管にも同じような状態が起こるのです。
 脳の血管の解離は、動脈硬化で障害を受けた血管の壁が高血圧の影響や、急激な頭や頸部の動きで起こります。解離の起こった壁の状態によっては、壁が裂けて「くも膜下出血」を起こしたり、血管全体や分岐する小血管も詰まらせて「脳梗塞」を起こしたりすることもあるのです。
 でも、こうした後遺症を残す出血や梗塞の前には、男性のように頭痛が起きます。血管の壁の一部がはがれ壁に血液が入り込んだときに痛みが引き起こされ、後頭部でも耳の斜め後ろ下辺りに局所的な強い痛みを感じるのです。
 男性は紹介先の病院での入院も短期間で済み、幸い後遺症もありません。今は持病の高血圧と、動脈硬化を促進する高脂血症の薬を服用しながら、血管が解離した部分の経過観察をしています。
 後頭部に局所的な痛みを感じ、少しでも「おかしいな」と思ったら、すぐ専門医に相談してください。



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26. 過呼吸時の発作は脳血管もやもや病の信号

 女性会員(32)が、残業すると決まって頭痛がする、と訴えます。「首筋から目の奥が重苦しくなり、肩こり感もひどい」と言います。
 典型的な「肩こり頭痛(筋緊張性頭痛)」ではないか、と思いましたが、念のため脳の断層検査を受けてもらいました。ごく小さな古い脳梗塞が1カ所ありました。「隠れ梗塞」と呼ばれ、症状が表れなかったものです。
 心臓に異常のない若い方の脳梗塞や脳出血はごく珍しいものです。磁気共鳴画像装置(MRI)で血管撮影すると、右側の大脳半球の血管(内頸動脈)が完全に、左側の血管も一部が、詰まっていました。これらの血管を補うように周囲に微細な異常血管ができていました。
 「脳血管もやもや病」でした。これは日本人が見つけた病気で、東洋人に多く見られます。微細な異常血管の様子が、たばこの煙がもやもやと揺れる状態に似ていることから、こう呼ばれるようになりました。
 原因は分かっていません。子供のころから少しずつ大脳半球の血管が詰まっていきます。
 もやもや血管の発達が十分でない小児期には、運動して息が上がったり、激しく泣いたり、笛を吹いたり、熱いラーメンを「ふーふー」と冷まして食べたりした時など、いわゆる過呼吸の状態になると、脳の血流が低下して半身の力が一瞬抜けたり、しびれたり、言葉が話せなくなったりする「一過性脳虚血発作」が起きます。
 もやもや血管が発達してくる思春期になると、症状が表にでることは少なくなりますが、30〜40歳になると、細かな血管の周囲の壁の弱い部分が切れ、脳出血を起こすことがあるのです。中には、年齢とともに脳の別の血管系が発達し、もやもや血管が消えてしまい、何事も無く天寿を全うされる方もいます。
 この病気は、親から子へ受け継がれることがあります。女性の母親(63)も後日検査で同じ病気だと分かりました。幸い娘も母も、脳の血流低下がまったくないことから、治療しないで、定期的に経過を観察しています。
 脳血管もやもや病は、早期発見できれば、脳血流の障害の程度に応じて適切な治療法(薬物治療、血行再建手術など)を選べますし、症状を最小限に抑えることができます。気になることがあったら専門医に相談しましょう。



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27. 毎春やってくる場合もある頭痛、心や体の変化に注意

 札幌のゴールデンウイーク時期は、桜や梅の開花とともに、花粉が飛散する季節です。アレルギー性鼻炎や副鼻腔炎などで頭痛が悪化する人が多くなると思われがちですが、実は別の原因で受診される方が多いのです。
 職場で毎年新人研修を担当している女性会社員(27)は、この時期になると、吐き気や嘔吐を伴なう発作性のズキズキとした「片頭痛」に頻繁に悩まされます。つい先日も「今年は特に痛い」とクリニックに来ました。
 41歳の男性はこの時期、ほぼ毎年のように夜の数時間だけ激しい頭痛が数週間続く「群発頭痛」に苦しめられています。年に1回、「頭痛が起きそうな気がする」と予防薬を求めて受診に来ます。「アルコールなどの誘発要因は極力避けてください」と毎年同じ助言をしています。
 頸部から肩が張り、毎日頭を鉢巻で締めつけられるような重たい感じの「筋緊張性頭痛」に苦しむ男性社員は、規則的に運動するようになってから、痛み止めの薬を飲む機会が減りました。ところが連休直前「最近はどうしてもつらくて」と訴えてきました。
 春は異動の季節でもあります。職場や学校が変わった方もいるでしょう。新しい人間関係をつくったり、新たな環境に慣れようと努力している方も多いと思います。知らないうちに心や体にストレスがかかっています。
 毎年春になると、筋緊張性頭痛、片頭痛、群発頭痛など持病の頭痛が悪化する方が多いようです。また、気持ちが落ち込んだり、食欲がなくなったり、寝られなくなったり、意欲がなくなるようなうつ状態や不安から起こる頭痛の患者も増えてきます。連休明けは特に多いかもしれません。
 こうした頭痛が悪化したとき心がけてほしいのは、自分の頭痛の特徴をしっかり把握するとともに、心や体の変化を察知して早めに対処することです。ストレスを発散するのも1つの方法かもしれません。痛みがつらかったり、軽くても長く続いたりするときは、我慢しないで医療機関に相談することも大切です。



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28.髄膜腫〜大きさによっては脳に影響

 50歳の女性は1年ほど前から、頭頂部の右側の前の部分に鈍い痛みを時々感じる、と訴えました。それまでは頭痛に悩まされたことなど一度もなく、家族の不幸などで心労が重なったせいかもしれないと思ったそうですが、心配なので受診したとのことでした。
 神経検査で異常はなく、エックス線検査で痛みの起こる場所だけ、小範囲ですが頭蓋骨が厚くなっていることが分かりました。磁気共鳴画像装置(MRI)で検査すると、頭蓋骨のすぐ下にある、脳の表面を覆う「硬膜」にゴルフボール大の腫瘍が見つかりました。腫瘍は周囲の正常な脳そのものを圧迫し、軽度ですが脳浮腫も起きていました。
 脳腫瘍には、脳そのものに発生する「脳実質内腫瘍」と、脳から出た神経や、脳表面を覆う膜、頭蓋骨など、脳そのもの以外から発生する「脳実質外腫瘍」の2種類があります。
 前者は、脳自体を破壊しながら増大するために、早い時期から手足のまひや感覚障害、言葉の問題など、神経症状と呼ばれる特徴的な症状が徐々に進行し、それがきっかけでみつかります。起床時を中心に吐き気を伴う頭痛が置き、日ごとに強さが増します。朝、頭痛とともにいきなり吐くこともあります。
 これに対し、後者の頭蓋骨の中でも脳の外にできた腫瘍は、ほとんどが良性でゆっくりと大きくなります。大きくなると周囲の脳にも悪影響を及ぼし、緩やかに進行する認知障害や、頭痛を引き起こすのです。
女性は脳実質外腫瘍の中でも最も多い「髄膜腫」という良性の腫瘍でした。腫瘍が2センチ以下だと経過観察も可能でしたが、それを超えて、すでに周囲の脳に悪影響が見られる大きさになっていたため手術で摘出しました。
 この女性のように、いつもはなかったような頭痛が起きたり、または、いつもとは違うような頭痛が起きたりして、それが少しずつ悪化し、吐き気や嘔吐を伴うようになったり、さらに手足の力のなさや感覚の異常などが起こってきた場合には、脳腫瘍かもしれない、ということを頭に留めておいてください。



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29. 早期発見が大切、脳下垂体腺腫


 46歳の女性は甲状腺の病気がありました。でも、その機能は、異常のない状態に落ちついていました。ところが、数年前から両目の間や目の奥が重苦しく感じる頭痛に悩まされるようになりました。
激しい痛みではないのですが、回数も強さも次第に増してきました。加えて、何となく体がだるく、疲れやすくなり、思い切って地元の脳神経外科を受診しました。
 診断の結果、脳下垂体に良性の腫瘍があることがわかり、「手術が必要」と言われました。急な宣告にすっかり動転してしまい、私のところに相談にみえました。
 神経検査をしたところ視力や視野に異常はなく、内分泌に関係する月経異常や乳汁分泌などの症状もありません。甲状腺刺激ホルモンが減少し、甲状腺ホルモンの分泌が低下していました。体がだるいのはそのためだと推測しました。
 次に磁気共鳴画像装置(MRI)で検査すると、脳下垂体が収まっている頭蓋骨のくぼみが大きくなっており、その中に最大径三センチ弱の大きな「脳下垂体腺腫」がありました。脳腫は視神経を圧迫し始めていました。
 この脳下垂体腺腫という病気は女性に多く、二種類に分けられます。1つは腫瘍自体が刺激ホルモンを分泌するため小さなうちに発見されやすい腺腫です。
もう1つは、ホルモンをつくらない腺腫で、大きくなってから初めて発見されるものです。
 前者には、妊娠や出産に関係なく乳汁が出て生理が止まった状態になる「乳汁分泌ホルモン産生腫瘍」や、成人だと手足の末端や顔面の骨が大きくなる末端肥大症の「成長ホルモン産生腫瘍」、肥満になり顔が満月様に丸くなる「副腎皮質ホルモン産生腫瘍」などがあります。これらの多くは、薬の服用だけで治療ができるようになっています。
 ところが後者は、頭痛、ホルモン機能低下による体のだるさや疲れやすさ、視神経圧迫による視機能障害などの症状が表れます。こちらは手術で腫瘍を取り除かなければなりません。
 女性は手術を受け元気になりました。脳下垂体腺腫は早期発見が大切です。目の奥が重たいような頭痛が起きたり、体のだるさなどのホルモン低下の症状や生理不順や乳汁分泌などのホルモン増加の症状が表れた場合には、脳神経外科で一度検査を受けるのがよいと思います。



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30.聴神経鞘腫〜耳鳴りと難聴、肩こり頭痛がサイン

 54歳の女性は10年以上前から、ちょっとした拍子に体のバランスを失いやすいふらつき感があります。それに、普段は気にならないのですが、静かな所では常に耳鳴りがしています。
耳鼻科で「聴力が落ちている」と指摘されたことがありました。でも、自覚はありませんでした。
 ところがつい最近、自分でも右の耳が聞こえにくいと感じるようになりました。
電話の声が聞き取りにくいのです。「年のせいかな」とも考えましたが、症状はゆっくりですが進行しているようです。しかも、左の肩から後頭部にかけて重苦しい感じがよく起こるようになり、疲れやすくなったとも訴えます。
 診察すると、神経学的には右耳の耳鳴りを伴う聴力低下がみられましたが、小脳などのバランス感覚の機能には異常はありません。女性は話をする時、顔を少し左に向けていました。聞こえが悪い右耳をかばっているのでしょう。そのせいで、頸部から肩が筋肉痛となり、典型的な肩こり頭痛を起こしていたと推測しました。
 磁気共鳴画像装置(MRI)の精密検査では、右耳の聴神経(脳の聴覚中枢と、内耳にある音や平衡感覚を感じる器官をつなぐ神経)の中で、内耳動という細い骨の管が通る部分に、1センチ未満の良性の腫瘍(聴神経鞘腫)が見つかりました。
 神経鞘腫は、脳神経から発生する良性腫瘍です。脳そのもの以外から発生する脳実質外腫瘍の中では、髄膜腫、下垂体腺腫に次いで3番目に多く、大部分が聴神経から発生します。
 かつては、とても大きくなって内耳動からはみ出し、脳幹や小脳を圧迫するようにならないと見つからない病気でした。
しかも大手術で、手術が成功しても顔面神経まひや小脳失調などと後遺症が残ることも少なくなかったのです。
 でも、今では精度の高い診断機器の進歩で、この女性のようなごく小さな腫瘍のうちに発見できるようになりました。良性ですので、早く発見できれば余裕を持って経過をみることができます。
 症状の進行や腫瘍の大きくなる速さをみながら治療法を選んでいきます。
摘出手術もありますし、「ガンマナイフ」という特殊な放射線装置で治療することも可能です。



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31. まずは対処法を知ることから始めよう

 74歳の女性は、数年前から毎日のように頭痛に悩まされています。朝は後頭部の重苦しさで目が覚め、夕方になると頸部から肩にかけて重い痛みが加わります。耳の後ろに電気が走るようなしびれも感じます。めまいや吐き気があるときも。「つらくて我慢できない」と訴えます。
 「きっと何かの病気だろう」と治療法を求め、あちこちの医療機関を訪ねました。どこに行っても「異常はありません」と言われたそうです。「頭痛なんてないはず」とでも言わんばかりに帰された病院もあったと言います。
 診療すると、腰と背中が曲がっていますが足腰の衰えはありません。確かに頸部から肩の筋肉の緊張が強い状態でした。軽い右後頭部の神経痛がありましたが、そのほかの神経症状はありません。
 エックス線の検査でも、姿勢の悪さと関係した頸椎の並びに問題は見られましたが、異常はありません。脳の精密検査でも、頭痛の原因となる異常や、症状がない小さな隠れ脳梗塞も見当たらず、脳の血管の動脈硬化もさほど進んでいない状態でした。
 検査後、女性にはまず「頭痛を起こすような病気はまったく見当たりませんね」と説明しました。でも、異常がなかったからと言って、患者に痛みがないわけではありません。
 続けて次のように助言しました。「長い間、頑張って来たから疲れが首から肩にたまって頭痛を引き起こしていたのですよ。心配しすぎないでください。肩こり対策に運動や体操をしましょう。気分転換に趣味や友人との会話をもっと楽しみませんか」
 頭痛の中には、脳の病気が原因で、早期に発見し、治療しなければならないものがあります。でも、多くの場合は、片頭痛や筋緊張性頭痛のように体質や生活習慣のストレスが引き起こした痛みなのです。
 相手(頭痛)をよく知って対処法を学ぶことが肝心です。専門医を受診し、しっかりとした指導を受けるのがよいと思います。不安で落ち込んだり、薬に頼りすぎたりするのは禁物です。
 「痛みが治らない」と思い悩むのではなく、体に負担をかけないような工夫を試み、痛みと向き合うことが大切です。「頭痛とつきあう」という気持ちを持ち、主治医と協力しながら乗り越えていきましょう。


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